探していた姿を見つけて、距離を詰めた。
警戒されないように微笑みを浮かべて話しかける。
「こんにちは、ニュアージュ」
ニュアージュ「……はい、こんにちは」
彼女からは特に驚きを感じられない。警戒や怯えもない。友好的な態度すら皆無だ。
その感情や反応の薄さを「人形のようだ」、と人は言う。確かに同意だ。
「これを渡してほしいと頼まれてね。彼女、今忙しいらしいから」
『それ』を手渡すと、彼女は僅かに目を見開いた。
ニュアージュ「これ……もしかして、ニーカさんが?」
首を縦に振って肯定する。渡したのは素朴な装丁の本。世界中で人気な小説だ。
少しだけ読んだ事があるが、確かにベストセラーになるであろう面白さはあった。
「……ありがとうございます」
彼女は大事そうに本を抱えた。その様子が、小説のワンシーンと重なる。
主人公「貴女は、とても良い親友を持ったね」
作中の台詞をなぞるように言うと、少女の頬が注視すれば分かる程度に赤く染まった。
ニュアージュ「えっと、その……はい」
……友情というものは、いいものだ。
例えば人形の少女を、こうして人間に変えるくらいには。