
「あの……」
医務室に顔を出すと、血と消毒液の匂いの中で幼い司令官──今は治療中のドクターでもある──が振り向いた。
クラーレ「なんでしょうか? ……ああ、貴方もですか」
ふう、と息を吐く彼女は、少し疲れているようだ。
無理もない。今夜は赤い月の日で、負傷者も多い。
現に、自分も戦闘時に負った傷の手当てをしてもらうために来た。
「すみません。お忙しいでしょうし、消毒液とガーゼを貰えれば自分で……」
クラーレ「ご安心を。おそらくは貴方で最後ですから。さあ、座ってください」
小さな手が丸椅子を指し示す。……ああ、逃げられない。
組織に加入してすぐの戦闘後に受けた治療を思い出す。
それは、遠慮なしの激痛を伴う消毒。
傷口を抉るように押し付けられる脱脂綿の痛みは、組織の人間なら誰しもが味わった事だろう。
「…………」
それでも怪我の治療はしなければならない。
観念して座ると、彼女は消毒液を吸った脱脂綿をピンセットで摘まんだ。
「行きますよ。今日は傷が多いので、いつもより念入りに消毒しますね」